Thursday, April 19, 2018

「今のMBAは20世紀型」日本型価値観追求するミレニアル向け“ポストMBA”新設

MBA(経営学修士)を取得でき、実践的な経営学を学ぶことを目指すビジネススクールが曲がり角を迎えている。

2000年代以降、日本中でビジネススクールが設立され、文部科学省によると、2017年5月時点で30大学が専門職大学院の経営大学院(技術経営のMOT含む)を運営している。一方で、2017年には南山大学、中京大学が学生募集を停止。世界のMBAに詳しい和光大学経営学部の金雅美教授は、「国内MBAの半分は定員割れだろう」と指摘する。

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「MBA冬の時代」になりつつあり今、ミレニアル世代向けの新しいビジネススクールが設立されようとしている。大企業の経営者を数多く輩出してきた経営者養成機関であるISL(アイ・エス・エル)が2018年8月に創設する至善館(しぜんかん)だ。

なぜ今新しいビジネススクールなのか、ISLの創設者で、至善館理事長の野田智義氏に聞いた。


今のビジネススクールは20世紀型資本主義の象徴

「今のMBA教育では、真のリーダーは育成できない」

MBAの現状について、至善館理事長の野田氏はそう語る。

野田氏自身、マサチューセッツ工科大学(MIT)でMBA、ハーバード大学で経営学博士号(DBA)を取得し、ロンドン大学ビジネススクールとフランス・インシアード経営大学院で長年MBA教育に携わってきた。

そこで教えられたのは、右肩上がりの経済を前提とした大量生産・大量消費モデルと、それを支えるピラミッド型の組織構造。さらにそのピラミッド型組織を担う、ファイナンス、アカウンティング、オペレーション、ストラテジーなど細分化された専門知識とアメとムチを使った管理方法だったという。

しかし、21世紀に入り、ビジネス環境は大きく変わりつつある。

資本主義というシステムの持続可能性への懸念は広がり、消費者のニーズの多様化による少量生産・少量消費モデルへの移行、ピラミッド型組織から共感と信頼を重視し、部門や組織の壁を超えた個人同士のヨコのつながりに力点を置くネットワーク型の組織へ。

企業は株主のために存在するという株主至上主義が声高に叫ばれてきたが、株主以外のステークホルダーを重視するSDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境、社会、企業統治を重視している企業への投資)など新しい指標も出始め、企業に対する従来の考え方にも疑問が呈されている。

こうした変化に対し、今のMBA教育は追いつけていないと、野田氏は指摘する。

「今、世界は西洋近代の行き詰まりを感じている。しかし、ビジネススクールは細分化された育成システムに組み込まれており、教育内容を変えることができていない。つまり真のリーダーを育成するために必要な教育ではなく、企業の都合のいいニーズに応えたカリキュラムが提供されている。極端に言うと、アメリカで教育を受けた人間が、それを盲目的に教えるという悪循環になっている。それを超えたものをつくろうとはなかなかならない」
大企業×ベンチャーで挑む「生活者の来店と買い物体験を変える」デジタルプラットフォーム

他方、日本やアジアの国々は本来違う思想を持っているという。西洋では自己と対象を明確に分離し(二元論)、個人の自由を求めるが、東洋では個人を社会の一員として捉え(一元論)、“生かされている”という考え方を持つ。

しかし、「今までの社会はあまりに西洋的価値観、個人に寄っていたのではないか」と野田氏は指摘する。

「ソウル国立大学の著名な学者は『韓国はIMFの管理下に入ったことで、超競争社会になり人間らしさを失った』と。(アジアに限らず)今のミレニアル世代は、競争はある程度必要だけど、それ以上に目指すものがあると思っているし、サステナビリティ(持続可能性)やインクルーシブ(社会的包摂)を重視するなど、価値観が大きく変わってきている」

日本のビジネススクールであれば、堂々と日本やアジアの価値観を追求してもいいのではないか。

「僕らはアメリカとは対極にある。けど、辺境にあるからこそ、イノベーションが起こせると思っている。世界のMBA教育を進化させたい。その取り組みが至善館とZ-Schoolコンソーシアム」
日本橋に拠点、地域とも連携

実際に至善館ではどういう教育を行うのか。

長年MBA教育に携わってきた野田氏。現在のビジネススクールを全否定しているわけではない。

「ビジネススクールが優れているのは仮説を検証する力。定量的、論理的、戦略的な思考力、これらは優れている。しかし、仮説を生み出す力はない。新しく構想するには、クリエイティビティーや洞察力、大局観が必要。この一部は*デザインスクールがつくっている。さらに、過去からの延長線上ではなく、非連続に物事を考え、新規事業を生み出す*イノベーションスクールの手法も取り入れる」

世界で200年以上の歴史を持つ企業は約5500社しか存在しないが、そのうち約3000社は日本。長く続いてきた企業に学ぶために、至善館は日本橋に拠点を置き、地域コミュニティーとも連携する。

募集人員は20代後半〜30代を中心に1学年80人で、日本人と外国人で約半数ずつにする予定。授業は日本橋キャンパスで原則平日夜と週末の週2回、働きながら通うことができる。授業料は2年間で計500万円。国内私立のMBAと比較すると授業料が高いが、途上国やソーシャルセクターの人向けには奨学金を用意し、既に募集人数は8割近くは埋まっているという。

「ISLは『知る人ぞ知る』リーダー養成機関で、2001年の創設以来、1300人以上の卒業生を育て、リクルートや資生堂、三井物産など数多くの企業経営者を輩出し、社会イノベーター公志園という約半年間のプログラムで社会起業家も育ててきた」

現在の応募者は企業からの派遣組が中心だという。

支援者には日本IBMの北城恪太郎名誉相談役ら著名な経済人が名を連ねる。卒業後には至善館の卒業生ネットワークだけではなく、ISLのネットワークにもアクセスできる。
必要なのはリベラルアーツと全人格教育

授業では資本主義とは何を目指すのか、企業や事業は何のためにあるのか、そして自分は何のために生きるのかという価値観を突き詰めて学ぶ。これらを考えるために、リベラルアーツと「全人格教育」を重視する。野田氏は言う。

「リベラルアーツは教養ではなく、本当の意味での未来を構想する力。人間とは何か、歴史を動かしているものは何か。世界の多様性を作り出しているものは何か。それらを本質的に理解できる力がリベラルアーツ。今ブロックチェーンが注目されているが、この技術を本当に理解するために必要なのは哲学や社会学、心理学などのリベラルアーツです」

全人格とは、立場で人格を使い分けないという意味。そのためにはどのような立場でも貫いていく軸のようなものが必要になる。

教える側には、経営学やデザイン開発が専門の講師以外に、哲学者の竹田青嗣早稲田大学教授や東洋思想家の田口佳史氏、臨済宗全生庵の平井西修住職など、専任教員15人・客員教員29人で構成される。学長は元立命館アジア太平洋大学学長のモンテ・カセム氏。

「これからはビジネスとソーシャルも分かれない。自分で新しい未来を作っていくんだという気概を持った若い人たちに集まって欲しい」という。
MBAのパラダイムシフトのための世界的コンソーシアム

野田氏が目指すのは「MBA教育の進化」。従来のMBA教育とは異なる教育ながら、あえて「MBA」を掲げるのは世界のビジネススクールと対話し、世界のMBA教育を変えるためだ。

そのために進めているのが、「Z-Schoolコンソーシアム」。「Z-School」という名前は全人格の「全」、真善美の「善」、マインドフルネスを問うための「禅」を象徴している。

「21世紀のビジネススクールは大きな岐路に立っている。22世紀に向けてどうやって新しいパラダイムを作っていくのか。そうした懸念を持った人たちを集めて議論しながら、ともに発信し、ともに走っていく」

コンソーシアムにはハーバードビジネススクール学長であるNitin Nohria(ニティン・ノーリア)など世界中のビジネススクールに関わる学者も参加するが、中心は至善館に加え、インドのSOILとスペインのIESE。海外のビジネススクールと提携しながら、世界のリーダーが育つ場所にしていきたいとしている。

  室橋祐貴 [Business Insider Japan]

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