Monday, August 6, 2018

MBA留学生の採用、尻込みする米企業



By Janaki Chadha and Kelsey Gee

2018 年 8 月 6 日 09:13 JST長年、米国の経営大学院を卒業した留学生はかなりの確率で、人もうらやむ米大手企業の高給職を手にしていた。だがドナルド・トランプ政権が就労ビザ(査証)の規則を強化したことから、その状況は急速に変化している。

好調な経済と完全雇用に近い状況にもかかわらず、大学職員らによれば、米国の一流経営大学院から学生を採用している企業の求人広告には、米国市民または合法的な居住者のみが対象だと明記されているケースが増えた。

調査会社ガートナーがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の依頼で行った分析によると、米市民権または連邦政府の就労許可を持つ求職者に限定した求人数は2018年1-6月に87万7000人超となり、前年同期から19%増加した。分析の対象となったのは、企業のウェブサイトやソーシャルメディア・プラットフォームの求人広告2500万件だ。

また、経営学修士課程入学審査協議会(GMAC)が1100社を調査したところ、米経営大学院卒の留学生の採用を予定している米企業は47%と、昨年の55%から減少した。

外国人の採用に消極的になった企業として学生や大学院職員が名前を挙げた中には、 ディスカバー・ファイナンシャル・サービシズ や デルタ航空 、インテルなどがある。こうした変化の背景には、高度な専門技能を持つ外国人労働者向けビザ「H-1B」の審査をドナルド・トランプ政権が強化したことがある。米市民権・移民業務局(USCIS)のデータによると、ここ数カ月はバラク・オバマ前政権の最終年に比べ、移民当局が追加の書類を求めてH-1Bビザの申請書を送り返すケースが多い。トランプ政権では、賃金や労働者が従事している仕事の種類について求める情報も増えている。

国土安全保障省(DHS)は今春、「オプショナル・プラクティカル・トレーニング(OPT)」参加者に企業が与える仕事の要件を厳格化した。OPTは、卒業した留学生がH-1Bビザの取得を目指し、1年間米国にとどまって働くプログラムだ。

高くなるハードルMBA取得者によるH-1Bビザの新規取得件数

FY2013’14’15’16’17010,00020,00030,00040,00050,00060,000FY2013x45,405

米国の大学院の登録者数(春に修士課程に登録した学生の人数)Sources: U.S. Citizenship and Immigration Services(H-1B visas); U.S. Immigration and CustomsEnforcement (international graduate students)*Number of students enrolled in master's programsin the spring of each year

2013’14’15’16’17’180100,000200,000300,000400,000500,000

ディスカバーは引き続き外国人のビザをスポンサーしているが、広報担当者によると、「H-1Bプログラムの将来を巡る不透明性」を受け、現在はビザが必要ない求職者の方を積極的に採用している。

インテルのキャリアサイトに掲載されている米国での求人830件をWSJが分析したところ、数十件は「米労働者のみ」を対象としていた。その多くは、ソフトウエアやファームウエアのエンジニア、ITサポートといった職種だった。ハイテク業界では、以前はこうした仕事がH-1B労働者によって埋まることが多かった。

インテルは外国人が応募できる求人の件数に関するコメントを控えたが、広報担当者は「米国での採用および移民スポンサーシップの指針は一切変更していない」と述べた。

学生や大学職員によると、デルタ航空、サウスウエスト航空、 キンバリー・クラーク といった企業は経営学修士(MBA)取得者を対象とした求人数十件に応募する条件として、ビザがなくても米国で合法的に働けることと明記している。デルタとサウスウエストはH-1Bビザが必要な従業員の採用を続けていると述べたが、今年についても過去についても外国人の採用者数は明らかにしなかった。キンバリーの広報担当者は、このところ全体にエントリーレベルの採用を減らしているものの「採用慣行や世界の求人広告の文言は一貫している」と述べた。

学生や大学職員は、多くの企業が昨年、外国人労働者受け入れの承認プロセス厳格化を予想して留学生の採用を減らし始めたと語る。公式統計によると、昨年度(2016年10月~2017年9月)に修士号取得者に新規発給されたH-1Bビザは4万5405件と、前年度の5万2002件から減少。新規採用者に対するH-1Bビザ発給の総数は11万4503件から10万8101件に減少した。

「やり直せるなら米国の学校は選ばない」

モハマド・サルマン・アシフさんは2年前、ジョージア大学テリー・カレッジ・オブ・ビジネスでMBAを取得するためパキスタンから米国に来た。今年5月に卒業し、来週からはカリフォルニア州サンノゼの ヒューレット・パッカード・エンタープライズ でシニア金融アナリストとして勤務する予定だ。同社は、アシフさんが来春に申請するH-1Bビザのスポンサーになることに合意している。アシフさんは、やり直せるなら米国の学校は選ばないと述べた。

ここ数カ月に1000件を超える求人に応募書類を送ったアシフさんは「本当に、本当に厳しい」と述べた。企業との面接や求人広告で、無期限の労働許可がないことがハードルだと思い知らされた。「戻れるものなら、もっと安定が得られる別の国を選ぶと思う」と話している。

留学生を取り巻く環境が厳しさを増していることは、米大学への海外からの出願数に悪影響を及ぼしている。GMACによると、昨年は米大学の圧倒的多数で2年制MBA課程に応募する外国人が過去10年で初めて減少に転じた。全米の減少率は5.8%だった。

減少は今秋も続く方向にあり、米国のMBA課程では来年度用にGMATのスコアを提出した外国人志願者が13%減少した。これに対し、フランスのINSEAD(インシアード)やトロントのロットマン・スクール・オブ・マネジメントなどでは海外からの出願が増えていることが、データで示されている。

GMACの幹部は「これらの学生が奨学金を手にする可能性はほとんどなく、授業料を全額払うことになる」と述べた。「母国で学生ローンを組み、米国で就職できない状態で返済する羽目になれば、経済的に成り立たない」 テキサスA&M大学メイズ経営大学院では、留学生の登録が昨年40%減少したという。コロンビア大学とジョージア大学の経営大学院では留学生の登録がそれぞれ14%、32%減少したと職員は話している。

一方、ペンシルベニア州立大学スミール経営大学院のMBAプログラム担当者によると、ビザをめぐる今後の状況が不透明なことから同行スタッフは留学生の割合を減らそうとしてきた。

テキサスA&M大学メイズの就職担当者によると、同校は新たな留学生の就職が以前より厳しくなることを見越し、専門のフォーラムを導入している。

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